プロロ−グ
燃えよ 丹の国
太古
丹波は丹の湖であった
赤々とした水面が
果しない拡がりを見せ
その波うつさまは
まるで燎原の火であった
大国主命が
この丹の湖の水を
今の保津川に引きこんで
干拓したと伝えられ
豊饒にして、古い
日本の原像を秘めた
この国の歴史は始まった
既に長い長い年月は流れ
現在−−−
この国の山も水も邑も
陰湿な濃霧につつまれ
泥土の如く沈み
黙りこくってしまった
文明の海の流れは
誘蛾燈のように
人々を乱舞させ狂喜させたが
そのあとは・・・・・・
いいようもない
虚無と倦怠と残滓に
おそわれ・・・・・・
心ある人々は
眼を細めるようにして
遠い太古の
丹々とした
燃えるような
湖の色を 光を
恋うようになった
丹は 赤
人間のあたたかい心であり
その波よせるところ
丹波の国である
人々のもとめる真実の灯の流れは
実は この陰湿な泥土と化した
この国の地底にある
霧をはらって
ポンペイの発掘の一鍬は
この国の中真
「綾部」の邑から
土着した 自らの手で
今こそ
始められねばならない
虚構から真実へ
物質から精神への
新しい大きな歴史のうねりの中で
渇仰する人々のためにも
そして自らのためにも
始められねばならない
おそらくは
積層された泥土は
深く 厚いにちがいない
しかし 掘りあてた
地下水の 耐えに耐えた
その赤いほとばしりは
一瞬にして
野山を
赤き満々たる
太古の丹の湖に
再現するであろう